太田 こういうことを言うとまたあらぬ誤解をされちゃうと思うんですけど……、これからはもうこういった出版業界の危機、みたいなことは言わないようにしようって、あの3.11以降、思うようになったんですよ。
渡辺 そうなんですか。なぜでしょう?
太田 原子力関係の専門家の人の話を聞いていて、自分が虚しくなってしまって。
小出(裕章)さんという方がいるじゃないですか。彼は原子力を研究しながら原子力を反対する立場をとっている、いわゆる「熊取六人衆」の中の1人なんですけど。
渡辺 注目されていますよね。
太田 あの方はずーっと、かつての僕と近い物言いだったわけですよね。つまり出版業界にいながらにして「このままじゃ出版業界、まずいんじゃないの?」「今のままのやり方だと危険がありますよ」ということを言い続けて……62歳になられたわけですよ。で、実際、原子力業界は彼の言ってきたとおりになったわけですよ。
渡辺 うんうん。
太田 ずーっとマイノリティで生きてきて……専門家集団の中のマイノリティってすごく生きていてつらいんですよ。でも実際に事故が起こったことで、「原子力、危ない」ということがようやく皆、わかった。彼はついに勝ったんです。では、彼に皆が感謝しているかと言うと、そうではないですよね。「そんなに安全ではなかったのであれば、なんでもっと一所懸命忠告してくれなかったんだ」みたいなムードで。だから、勝っても負けても、虚しい。「出版業界が危機だから〜」って提言することは、だからある種、大きなお世話なんですよね。
星海社一周年記念特別トークセッション「いくぜ! 星海社」2011.5.20 中野ブロードウェイ K-CAFE | 最前線 (via tsuda)